アルツハイマー病新薬レカネマブ(レケンビ®)治療についてお知らせ
アルツハイマー病の新しい治療薬レカネマブ(レケンビ®)が2023年12月20日に発売となりました。レカネマブ(レケンビ®)は、アミロイドベータと呼ばれるタンパク質を脳内から除去する新しい作用をもった薬剤です。当院脳神経外科では、厚生労働省が定めた「最適使用推進ガイドライン」に従いこのお薬を安全に投与できる体制を整えました。受診からの流れをご参照いただき、レカネマブ(レケンビ®)治療を希望される際は、脳神経外科外来にご連絡ください。
認知症高齢者の数はますます増加
65歳以上の高齢者のうち認知症を発症している人は推計15%で、2012年時点で約462万人に上ることが厚生労働省研究班の調査で明らかになっています。認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の高齢者も約400万人いると推計されており、65歳以上の4人に1人が認知症とその“予備軍”となる計算です。
※出所:「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」
(平成26年度厚生労働科学研究補助金特別研究事業 九州大学 二宮教授)による速報値
厚生労働省 認知症施策の現状について
※2015年以降のMCIの推計値は2012年の推計値をもとに認知症の人数86%として計算
さらに、2015年1月厚生労働省により、2025年の認知症患者は700万人を超えるとの推計が発表されました。これにMCI患者数を加えると、約1300万人となり、65歳以上の3人に1人が認知症患者とその予備軍といえることになりそうです。
また、認知症専門医の間では、MCIの数はもっと多いはずだという声も多く、MCI患者だけで1500万人を超えるという見解を持っている医師も少なくはないようです。
主な認知症の種類別割合
※出典:厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」平成23年度~24年度 総合研究報告書
認知症の種類によって症状も変わってくるので、それぞれに合わせた適切な対応やケアが重要になります。
軽度認知障害(MCI)とは?
MCI(Mild COgnitive Impairment)とは、認知症と完全に診断される一歩手前の状態のことです。放っておくと認知症に進行しますが、適切な予防をすることで健常な状態に戻る可能性があります。
※出典:厚生労働省「MCIハンドブック」
軽度認知障害(MCI)の主な原因
MCIから認知症に進みやすい原因の一つにアルツハイマー病がありますが、脳の病気だけでなく、体の病気yあ精神的なストレスなどさまざまな原因があげられます。
原因を早期に発見して、MCIから認知症へ進行しないよう適切な対策を行うことが重要です。
日本神経学会監修:認知症疾患診療ガイドライン2017(医学書院)p6,2017
Alzheimer’s Society. Factsheet 470LP June2019
https://www.alzheimers.org.uk/sites/default/files/2019-09/
470lp-what-is-mild-cognitive-impairment-mci-190521.pdfより作成
アルツハイマー病の進行
出典:エーザイ株式会社「レケンビ®の治療を始める方とそのご家族へ」
アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)
アルツハイマー病によるMCIと認知症のちがい
年齢に応じた認知機能の変化
認知症新時代
「レケンビ®」(一般名:レカネマブ)は、「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」の効能・効果で製造販売承認を取得し、2023年12月20日にエーザイ株式会社から発売された新薬です。日本での販売はアメリカに次いで2か国目になります。
2023年9月26日、米国のイーライリリー社は、早期アルツハイマー病の治療薬として、抗アミロイド抗体医薬「ドナネマブ」の承認申請を厚生労働省に提出しました。
レケンビ®(レカネマブ)
- 「レケンビ®」は、アミロイドβ凝集体モノクローナル抗体であり、アルツハイマー病の進行を抑制し、認知機能と日常生活機能の低下を遅らせることを実証し、承認された、世界で初めてかつ唯一の治療薬です。
- 「今までの認知症の薬物治療とは全く違う、大きなブレークスルー(突破口)になる。(アルツハイマー病を含む)神経変性症の治療を変える大きな一歩だ」
日本老年精神医学会理事長、大阪大学 池田学教授(精神医学)
アルツハイマー病は、脳におけるアミロイドβと呼ばれるたんぱく質の異常が病気を引き起こします。
正常な状態では、アミロイドβは産生されてもバラバラのまま脳から取り除かれますが、アルツハイマー病の人では塊を作って脳の中にたまります。この塊が神経細胞を障害することで、神経細胞の働きが落ち、数が減って、脳の委縮が進みます。
レカネマブは厚生労働省が定めた「最適使用推進ガイドライン」を守って使用することとなっています
(1)投与対象となる患者
① 治療意思 の確認
② 本剤の禁忌に該当しない
③ MRI 検査(1.5 Tesla 以上)が実施可能
④ 認知機能の低下及び臨床症状の重症度範囲
a)認知機能評価 MMSE スコア 22 点以上
b)臨床認知症尺度 CDR 全般スコア 0.5 または 1
⑤ アミロイド PET または脳脊髄液(CSF)検査を実施し、Aβ 病理を示唆する所見が確認されている
(2)投与施設
ア 初回投与に際して必要な体制
(ⅰ)施設における医師の配置
(ⅱ)検査体制
(ⅲ)チーム体制
イ 院内の医薬品情報管理の体制
ウ 副作用への対応
受診から検査と治療の流れ
STEP1 MCI・認知症であるか否かを診断します
受診時には、家族、介護者など患者の日常の様子を知る人の同行が必要です。
認知機能検査(MMSE・CDR)を受けていただきます。
STEP2 MCI・認知症の原因を調べます
血液検査・脳MRI撮影を行い、検査結果を総合して鑑別診断します。
MRIではレケンビ®の副作用リスクの高い特有の異常がないことを確認します。
STEP3 アルツハイマー病の診断・レケンビ®の適応か否かの検査をします
脳へのアミロイドβの蓄積を証明する検査として、腰椎穿刺による髄液検査を行います。
陽性であればレケンビ®の投与の対象に該当するか否かを判断します。
投与スケジュール
2週間に一度来院していただき、静脈点滴で薬剤を投与します。点滴にかかる時間は約1時間です。
投与開始から半年程度は、脳の腫れや脳の出血などの副反応を生じる可能性があるため、定期的な脳MRI検査を行います。
PET検査(アミロイドPET)と脳髄液検査
PET検査は被爆の影響があり、レカネマブ投与の要否を判断する目的で行う場合に保険適用となったが、高額である。
髄液検査は局所麻酔で行い、10分程度で終わります。脳神経外科では日常的に行っている検査です。
レケンビ®の副作用
- レケンビ®のようにアミロイドβを減少させる薬を使用すると、アミロイド関連画像異常(ARIA)という副作用があらわれることがあります。
- ARIAは、脳からアミロイドβが除去されるときに、一時的に血液や血漿が血管の外に漏れだすことで起こります。それにより、脳のむくみや脳の中で出血が起こることがあります。(症候性浮腫2.8%、症候性出血1.4%)
- ARIAの有無はMRI検査で確認することができるので、レケンビ®投与後は、MRI検査を定期的に行います。
アルツハイマー病の非薬物療法(薬を使わない治療)
- 体の健康:睡眠、食事や運動などの生活習慣。生活習慣病の治療。
- 心の健康:明るい気持ちでいる。心配や不安は相談。
- 交流・コミュニケーション:社会参加、仕事や習い事を続ける。ボランティア活動、周囲の人と交流する。
- 生活上の工夫:おおらかに考える。メモや手帳でもの忘れに備える。