水頭症外来(2021年2月1日開設)
「治療可能な認知症」として注目される特発性正常圧水頭症(iNPH)の診断・治療を行う専門外来です。
水頭症とは脳室に髄液が過剰に溜まってしまったために脳を圧迫し、さまざまな症状を引き起こしてしまう疾患です。その中でもくも膜下出血や脳出血、頭部外傷、髄膜炎などの頭蓋内疾患に引き続いて起こってしまう続発性水頭症とは区別し、原因が明らかでないものを「特発性正常圧水頭症」と呼んでいます。
特発性正常圧水頭症とは
「認知症は治らない」とあきらめていませんか?治療できる認知症・歩行障害・尿失禁があります。
特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:以下、iNPH)は 「治療により改善する認知症」として知られています。iNPHが疑われる患者は現在30万人以上いるといわれていますが、残念なことに今まであまり注目されておらず、診断・治療されないままになっていることが多いのです。
治療の進歩
最近の研究によりiNPHの病態の解明がかなり進んできました。精度の高い診断による外科的治療(髄液シャント手術)によって、非常に高い割合で症状の改善が得られるようになってきました。
3つの主な症状
iNPHの主な症状は、歩行障害・認知症・尿失禁で、三徴候と呼ばれています。声が出にくくなったり表情が乏しくなることもあります。
歩行障害
歩行が不安定になります。足が上げづらく、すり足になり、歩幅も小刻みになります。そして足を広げて歩くようになるのが特徴です。特にUターンするときによろめきが強く転倒することがあります。障害が強くなると、第一歩が出ずに歩き始められなくなったり、起立の状態を保持できなくなります。三徴候のうち最も改善確率の高い症状です。
認知症
自発性がなく、思考や行動面での緩慢さが目立ちます。興味や集中力をなくし、日課としていた趣味や散歩などをしなくなるといったことが起こり、もの忘れも次第に強くなります。
尿失禁
トイレが非常に近くなったり、我慢できる時間が短くなったりします。歩行障害もあるため間に合わなくて失禁してしまうこともあります。
受診・診察
iNPHでは歩行障害が初期症状であることが多く、認知症が現れる他の病気と区別するポイントにもなります。歩行障害が見られ、その後認知症や尿失禁が伴ってくる場合はiNPHの可能性が高まります。
三徴候のうち1つでも現れ、その原因が明らかでない場合はiNPHの可能性を疑ってみることです。特に、比較的短期間で認知症が現れたり、歩行障害が進むときは、脳神経外科を受診することをおすすめします。これらの症状は急速に悪くなったり、ゆっくり進行したりしますが、放置すると次第に寝たきりになるため、見逃さず早期に受診・治療することが重要です。
転倒されるご高齢者はiNPHの可能性があり、転倒はiNPHを疑うきっかけとして充分です。転倒・骨折で寝たきりになる前に水頭症外来を受診してください。
セルフチェック
特発性正常圧水頭症(iNPH)のセルフチェックをすることができます。
ご高齢になると、さまざまな病因によってiNPHの症状に似かよった症状が現れてくるものですが、セルフチェック項目の状態がある場合は、iNPHを疑ってみることが大切です。iNPHの症状は、なるべく早く見つけ、正しい治療を行うことが大切です。
- 足があげづらく、小刻みに少しずつ歩く。
- 少しガニ股で不安定な歩き方になる。
- つまづきやすくなったり、不意に転んでしまうことがある。転回する時にふらつく。
- 歩く時に、第一歩が出なかったり、床に張り付いたような感覚がある。
- 歩くことができない。または、立つと不安定である。
- 注意力、集中力を維持するのが難しい。
- 最近、ものごとが覚えづらい。
- 日ごろ習慣としていることや趣味などをせず、ぼーっとしてしまう。
- 怒りっぽくなった。
- 最近、トイレが非常に近い。
- おしっこの我慢できる時間が非常に短くなった。
- おしっこを漏らしてしまうことが多くなった。
- 表情が乏しくなった。
診断
iNPHは、脳の中の髄液の流れがスムーズにいかなくなって脳と脊髄の表面(クモ膜下腔)に過剰にたまり、主に脳室が拡大することにより起こります。基本的に症状といくつかの検査でこの髄液循環障害が確認されると「特発性正常圧水頭症」と診断されます。
画像診断
頭部を水平・垂直に撮影したCTスキャンやMRIの断層画像から、脳室が拡大していないか、クモ膜下腔が狭くなっていないか、シルビウス裂が開いていないか、脳梗塞などの病気がないか、などをポイントに状態を把握します。
横断面
頭部を水平に切った断層画像です。脳室の拡大の程度がよく分かります。シルビウス裂やクモ膜下腔の状態も把握します。
出典:医療法人堀尾会 熊本託麻台病院 院長 平田好文先生
冠状面
頭部を耳と耳を結ぶ垂直に切った断層画像です。各脳室とクモ膜下腔の状態が一枚でよく分かります。
出典:東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学 リハビリテーション科 森悦朗先生
検査
iNPHの症状があり、画像診断にて脳室の拡大が認められると、髄液循環障害の有無を検査します。髄液排除試験(髄液タップテスト)が最も簡便な方法です。
髄液排除試験(髄液タップテスト)
腰椎(腰骨)の間から脊髄クモ膜下腔に穿刺針を刺し、髄液圧を測ってから、1回30mlほどの脳脊髄液を排出させます。検査後の症状が検査前と比べて一時的に改善すれば、手術(髄液シャント術)が有効であることが期待できます。3日間の検査入院でできます。
髄液を抜くこと(髄液タップテスト)による改善の確認のためのリハビリ評価
◇ 評価は合計4回(タップ前・直後・翌日・1週間後)評価を比較して変化をみます。
◇ 評価の所要時間は約1時間です。
治療
過剰にたまった脳脊髄液を他の体腔へ流す手術を行います。この手術により、髄液の流れがよくなって障害されていた脳の機能が戻り、症状が改善されます。中には、劇的に改善する方もいらっしゃいます。
【腰椎-腹腔シャント】 髄液の流れをよくする治療によって症状が 改善します。この手術を髄液シャント術と いい、脳神経外科で施されます。腰椎- 腹腔シャントは頭部を処置する必要がない ことが一番のメリットです。
出典:高齢者の水頭症iNPH.jp
髄液シャント術
主に、脳室‐腹腔シャント、脳室‐心房シャント、腰椎‐腹腔シャントの3つの方法があります。
最近では、腰椎‐腹腔シャントが主流になりつつありますが、腰椎の変形などが強い場合には他のシャントを行います。手術は1時間程度です。
術後に脳室、クモ膜下腔の大きさの変化を診るために、CTスキャンあるいはMRIを行います。10日前後の入院を必要とします。運動機能の回復を図るためにリハビリなどの補助療法をすることもあります。
髄液タップテストにより改善を認めてシャント術をした症例
①髄液タップテストで認知機能と歩行機能の改善を確認します
②シャント術を施行して脳の中の髄液の流れをスムーズにします
・歩行と認知機能が向上しました
治療後と回復
歩行障害が高い確率で改善します。歩行障害が改善すると、自力移動がスムーズになりトイレに間に合うため尿失禁も改善傾向を示します。 また、歩くことにより周囲から多くの刺激が脳に伝わり、脳リハビリの役目を持つことから、長期的に認知症症状の改善にも役立つことが知られています。 これらの症状の改善は、患者さま自身の自立とご家族の介護負担の軽減につながり、生活の質の向上を可能とします。
出典:高齢者の水頭症iNPH.jp
一般に、シャントシステムを埋め込んだ患者さまは、激しい運動を除いて日常の活動に制限はありません。ただし、速く歩けるようになっても不安定性は残っていることもありますので見守りが必要な場合もあります。
iNPHはゆっくりと進行することがあるため、退院後も状態をチェックするため定期的に診察を受ける必要があります。
当院での実績(2015年10月~2021年2月)
◇・タップテスト 69例
◇・シャント手術 56例
脳神経外科 溝渕 光
水頭症外来のご案内
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【診療時間】
診療時間:午前9:00~12:00(受付 11:30まで) 担当医師:溝渕 光